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ことわざ美術館へのご招待

  ことわざは言葉の表現の一種です。もともとは人々の口から耳へと伝えられ、文字にも表されました。世界最古のことわざは4000年以上前にメソポタミアのシュメール人がクサビ型文字で粘土板に残しました。日本では古事記に残されています。


 ことわざの伝達・伝承は音と文字が主ですが、なかには絵画などの視覚的な表現もたくさんありました。ヨーロッパでは農民画家として有名なブリューゲルの大きな国宝の絵が知られていますし、その他の画家にもいろいろありました。日本にもあります。さまざまなジャンルで、平安時代の刀の飾り金具に細工された「猿猴が月」から、現代の作品まで数えきれない程にあるのです。


 これから、<ことわざ美術館>と名づける本コーナーで日本に伝わる名作といえる作品に絞り、シリーズで紹介して行きます。


 第一回目は幕末期の『狂斎百図』の中の一枚です。百図の名があるように百を超すことわざが絵にされています。作者は河鍋暁斎といい、幕末から明治期にかけて活躍した絵師です。西洋では葛飾北斎に劣らない程の人気があった画家ですが、日本では限られた人にしか知られていませんでした。それでも30年くらい前から一般に知られるようになり大きな展示会が何回も開かれていますし、埼玉県蕨市の河鍋暁斎記念美術館でも随時、観覧できます。


 掲載の図は、上が「なく子と地頭にはかたれぬ」、下が「百日の説法屁一つ」。上図はまる裸の男の子が、乳児を背負い鍬を担ぐ母親を手こずらせている情景と、地頭に平身低頭する人物を描いているもの。下は、まっ赤な衣を着た僧が、赤い布で覆われた説教台の上で尻を丸出しにしてまっ黄っきな強烈な屁をはなったため、周りの聴衆が鼻をつまんであわてふためいている場面だ。それにしても赤と黄色の取り合わせもすさまじく、観る者へのインパクトは絶大。言葉だけならこれ程にはなるまい。

 

時田昌瑞

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