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HPことわざ研究/談話室 #5
2021年5月1日
世界ことわざソング『鳴かないホタル』
日本ことわざ文化学会 大丸 智史
世界各国にあることわざに興味をもってもらいたいと考え、世界のことわざに含まれているエッセンスを歌詞に織り込みました。私は先日刊行された『世界ことわざ比較辞典』から、同じ意味合いのことわざが世界中に存在していることを知り、またそこに取り上げられているモチーフが国や言語によってまったく異なっていることに大きく心を動かされました。生きる風土は違えども、自然現象や日々の活動から感じることは、人間にとって普遍性のあるものなのだ、というメッセージを歌詞に込めて、制作に取り組みました。
歌詞には「僕」と、「僕」が恋心を抱く「君」が登場します。「僕」は、自分の姿が相手にどう映っているのか思いを巡らせます。それに対して「君」は、さまざまな譬えをもって答えるのですが・・・。ここまでの歌詞にはティーンエイジャーの男女間の青さが描かれてきましたが、ここからは、歌詞の舞台が一躍ワールドワイドになります。
「少しよくばりな僕のこと 君はなんて答えるかな」の問いに対し、「スペインの君は“ヒヨコ”と言う」「中国の君は“熊”と言う」「ギリシアの君は“歌”と言う」・・・返ってきた答えはまるで謎かけのようです。これは、日本語における「取らぬ狸の皮算用」ということわざを各言語で表したときに出てくるモチーフなのです。スペイン語では、「生まれる前にヒヨコの数を数えるな」。中国語では「熊を捕まえないうちから皮を分ける話をするな」。古典ギリシア語では「君は勝利する前に賛歌を歌う」。これらのことわざに触れてみて、どう感じましたか? 譬えの題材になったモチーフは言語で違えども、譬えの内容と意味に、強い共通性を見出せたと思います。歌詞は、このように世界各国のことわざに触れながら紡がれていきます。
歌がフィナーレに向かう場面には、私が世界のことわざに触れて感じたメッセージを込めました。「昔、神様は人と言葉をばらばらにした」。これは、バベルの塔の名称で知られている旧約聖書のくだりを指しています。国や風土によって用いられている言語と言葉に大きく違いがあることを象徴する詞です。そのあとには「でもね 同じことを思う 僕ら」と続きます。「言語が違っても、考えることや思うことにそうそう違いがあるものではない。だって僕らは同じ人間なのだから!」これは、私が今回の制作を通じて感じたものの中で最も強いメッセージです。メランコリックな歌詞とメロディで始まったこのフレーズは、前向きな力強さをもって最終章に突き進みます。
今回のことわざソングには、こうした想いを込めました。ちなみに、曲名の「鳴かないホタル」は、「鳴かぬ蛍が身を焦がす」のことわざが由来です。曲名を見聞きした人が、ああ、これはことわざに関係のある歌なのかな、恋の歌なのかなと想像してもらえるように願いました。
『鳴かないホタル』
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