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HPことわざ研究/談話室 #33
2025年5月
「難波の葦は伊勢の浜荻」考
渡辺慎介
プロフィール
日本ことわざ文化学会会員
1943 年生まれ。横浜国立大学名誉教授 大学では物理を教えていました。定年後にことわざに興味をもち、本学会に加入し、ことわざを楽しんでいます。
著書:物理学の著書はいくつかありましたが、大半は絶版になっています。現在刊行されている 「物理学入門コース/演習 例解力学演習」(岩波書店)と「理工系の数学入門コース演習ベクトル 解析演習」(岩波書店)は、それぞれ35年前と25年前に書いたもので、未だに無知を曝しているようで、恥ずかしい思いをしている。やはり、33年程前に書いてすでに絶版になっている 「ソリトン非線形の不思議」(岩波書店)は、松岡正剛氏の千夜千冊―848夜に評が載っています。 私の若い時の顔写真もあります。現在は、全文が掲載されていないようです。松岡正剛氏は 自分の言いたいことを言っているだけで、本の内容にはほとんど触れていません。本の評価は良くないようです。この書評は松岡正剛著「千夜千冊エディション 数学的」角川ソフィア文庫 pp. 272-279(令和6年3月)にも載っています。興味があれば、本屋で立ち読みして下さい。 買う必要はありません。
要旨
ことわざ「難波の葦は伊勢の浜荻」に最初に出会ったのは、本会に入会して時田さんの 「岩波ことわざ辞典」を通読していた時であった。七音七音の読みやすい句であり、すぐに頭に 入ったのを記憶している。意味は、呼び名や習慣は、同じものでも地方によって違うものだという たとえ、である。ことわざの形式も意味も特に目立った特徴もなく、どちらかと言えば平凡なことわ ざである。しかし、植物学的に言うと「葦」という植物が「荻」という植物と同じであると主張している のだから矛盾がある。 そこで、この論考では、「伊勢の浜荻」と「難波の葦」が和歌で詠まれた 歴史を顧みるとともに、両者が同じ植物であると主張されるに至った経緯を先ず検証する。同じ 植物であるとの主張は歌論の中で言い出されたことを最初に指摘する。本草学というか植物学の 分野で、その主張が平安時代から鎌倉時代までに検証された事実は確認不可能であるが、歌論 に携わる人々が長くそのように主張してきたことは確かである。南北朝時代の 1356 年に菟玖波 集において「難波の葦は伊勢の浜荻」と詠まれ、ことわざとして定着した。江戸時代、そのことわざ は人口に膾炙し、俳句、狂歌、川柳などにも取り上げられた。 一部には、「伊勢の浜荻はい葦にあらず」の主張もあったが、それが大きな勢力となることはなか った。 最終的には、江戸後期の本草学者である小野蘭山と植物分類学者の牧野富太郎が伊勢 を訪問して、「伊勢の浜荻と言われている植物は芦である」ことを検証した。しかし、現代でも一部 の辞書などは「伊勢の浜荻は葦にあらず」の見解に固執している場合もあるし、そうでない場合で も間違った解釈をしていることもある。平凡なことわざにしては、話題が尽きないという少し変わっ た性格の持ち主なのである。
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HPことわざ研究/談話室 #32
2025年3月
ベンジャミン・フランクリン『貧しいリチャードの暦』の
ことわざめぐり
林幸子
日本ことわざ文化学会員。
元埼玉県立大学准教授。
現在:神奈川大学非常勤講師。日本笑い学会関東支部運営委員。
専門:アメリカ文学。特にマーク・トウェイン、ベンジャミン・フランクリン研究。
著書:テキスト版 66 Ways to Save the Earth など
要旨
「ベンジャミン・フランクリン『貧しいリチャードの暦』のことわざめぐり」と題した連載も本論で最終稿となる。Benjamin Franklin(1706-1790)作Poor Richard’s Almanack (『貧しいリチャードの暦』)はことわざの宝庫ともいわれるが、これまで日本では全体像の紹介がほとんどなされていない。そこで全体像の把握を目指し、前稿までに1733年から1747年まで15年間の暦を分析し、およそ500のことわざが確認できた。フランクリン自身が認めている通り、掲載されていることわざの多くはフランクリンの創作によるものではないが、彼は言葉の無駄の削減やイメージの具体化、anti-proverb(反意ことわざ)といったリメイク手法を用い、独特の娯楽性豊かなことわざに作り変えている。
連載の最終稿として、本論では1748年から1758年まで11年間の『貧しいリチャードの暦』を対象とし、これまで同様すべてのことわざを取り出し分析するとともに、前稿までの15年間と合わせて26年分、つまり『貧しいリチャードの暦』のことわざ全体の傾向や特徴を考察する。さらに、1748年以降タイトルがPoor RichardからPoor Richard Improvedに変更されたことの意味や、後にThe Way to Wealth (『富に至る道』)として独立して出版される最終1758年版の独自性についても考察する。
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HPことわざ研究/談話室 #31
2025年2月
英語固有のことわざについて
東森勲
龍谷大学名誉教授. 専門は英語学,特に認知語用論.英語ことわざ研究はじめて10年。まだまだ奥深くて、道半ばです。今回の執筆内容では、英語固有のことわざということで、先行研究がなくて、苦労しました。イングランド固有種の動植物など論文にまずあたりましたが、なかなかことわざと結びつかないで、最初はどこから手をつけるか手探りでした。なんとか形になりよかったです。かつて、『プラクテイカル・ジーニアス英和辞典』(大修館)の編集主幹となり、日本文化固有の内容の英語の例文を用例としてたくさん作成しましたが、日本独特でないとして、かなり没となりました。今回もイングランドだけでなく、ヨーロッパ、あるいは世界中にあるものとしてかなり英語固有の候補としてあげたものを没にしました。イングランドは地理的にも文化的にもヨーロッパと近くて、固有性発見は難題です。
要旨
本稿では97例の英語固有のことわざを集めて、分類し、それぞれの表意、推意を付け加えた。ことわざが英語固有であるということを示すため、できるだけ詳しくイングランドの文化的背景を付け加えた。三例を以下に紹介する。
(1)Hunger makes dinners (=the day’s main meal), pastime suppers.
— Tilley (1950:333) 初出1640, Fergusson (2000:113)
表意:空腹を満たすにはディナー(一日の主要な食事)(でたっぷり食べて)、味覚を楽しませるためにはサパーで軽く食べるのがよい。
(2) Corn in good years is hay, in ill years straw is corn.
—Tilley (1950:119) 初出1640
表意:豊作の年には[CORN]*(=麦類)は[HAY]*(=牛馬の飼料)となり、凶作の年には[STRAW]*(=わら)は[CORN]**(=人間の食糧)になる。
(3) It takes three generations to make a gentleman.
—Fergusson (2000:24), Speake (2008:127) 初出1598
表意:ジェントルマンが生まれるには3世代かかる。<大塚・高瀬(1976:371) >
例(1)ではイングランドでの食文化の変化におけるdinner とsupperの違いの理解、例(2)では農作物cornの意味理解の変化、例(3)ではイングランドの階級社会でのgentlemanの意味を文化的背景も含めて正しく理解しないと英語固有のことわざの理解には至らないと思いました。
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